~ 本場のティータイムを、岡崎で ~
イベント開催報告
◆2025.12.13 Keswick読書会
 〈好きな本を紹介し合いましょう〉
【紹介された作品一覧】
『日本の大和言葉を美しく話す』高橋こうじ
『美しい季語の花』監修:金子兜太
『日本のこよみ』井上千鶴(文)・井上博道(写真)
『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース
『パタゴニア』椎名誠
『トリエステの坂道』須賀敦子
『東京百年散歩』田山花袋(著)・歴史街歩き同好会(編集)
【詳細な内容】
◆『日本の大和言葉を美しく話す』高橋こうじ
日本語教師のCさん「私は活字中毒なので、電車に乗る時も必ず本を買って持ち歩いていました。今は本も高くなったので図書館で借りて、いいなと思った本だけ買うようになりました。私は言葉が好きなので、『浮く』と『浮かぶ』はどう違うんだろう、『ひねる』と『ねじる』の違いは、などと考えるのが楽しいので、今は日本語教師になって楽しく教えています。
 本書には、『ゆるがせにしない』とか『お手隙のときに』といった、生粋の美しい大和言葉が紹介されていて、いいなと思いました」
◆『美しい季語の花』監修:金子兜太
Cさん「私は俳句がけっこう好きで、この本には、俳句の季語の説明が書いてあります。一年365日の一日に一つの季語が選ばれ、俳句の説明と季語の説明が書かれています。お茶を習っていて茶花にも興味があるので読みました」
◆『日本のこよみ』井上千鶴(文)・井上博道(写真)
Cさん「言葉の本ばかりですが、本書は二十四節気の暦をテーマに、春夏秋冬の美しい日本の風景を写真と文章で綴った本です。昔の暦や呼び方にも興味があるので、面白く読みました」
春名「今は自由主義の風潮の中で、昔の風習やしきたりが否定される傾向にありますが、僕はそれが決して人々の幸せにつながっていないと思っています。だから、日本の美しい風習や言葉をなくしたくないし、なくなっていくのは寂しく思います。言葉については、僕らですらだいぶ失っていると思いますが」
◆『翻訳できない世界のことば』エラ・フランシス・サンダース
Cさん「ある国の言葉では一つの単語なのに、別の言語にそのままの言葉がなくて長い説明になる、そうした例を集めた本です。たとえばスウェーデン語の『mangata (モーンガータ)』は、日本語にすると『水面に映った、道のように見える月明かり』となります。逆に日本語の『木漏れ日』は、外国語では一言で表せず、『木々の葉の間から差し込む太陽の光、そのちらちらと揺れる様子』という感じになります。たとえばインドネシアの人に、細雪、ぼたん雪、粉雪と言っても通じません。彼らの言葉では、雪は雪でしかないからです。その国の人でないとわからない言葉があるので、面白いです」
春名「ポルトガル語の『サウダージ』も日本語で簡単に言い表せないと聞いたことがあります。僕は海外文学をよく読むんですが、日本語になった文章は外国の言葉そのものを味わっているのではない、とよく感じます」
あでりー「この本は見ているだけで面白いですね」
春名「僕が日本語に関する本として覚えているのは、三上章さんの『象は鼻が長い』です。かなり昔の名著で、日本語の助詞の『は』の解釈が書かれています。もちろん諸説ありますが、僕はこの本の解釈がいちばん腑に落ちると思っています。『は』は通常、主語につくと思われがちですが、そんなことはなくて、いろんな助詞の替わりになるスーパー助詞なんですね。
 たとえば『掃除は私がやりました』という文で、『は』がつくからといって、『掃除』が主語にはなりません。『掃除を』の替わりに「掃除は』にして強調しているわけです。他にもよく料理のレシピで使われる文で、『玉ねぎはみじん切りにします』『ニンニクはスライスします』などとよく言いますが、玉ねぎやニンニクが何かを成しているわけではなく、『玉ねぎを』『ニンニクを』の変形なわけです。日本人は、自分が喋る際には完璧に使い分けできていますが、それを外国人に理屈づけて教えるのは本当に難しいです」
◆『パタゴニア』椎名誠
春名「Cさんは旅行がお好きなので、旅に関する本をいくつか持ってきました」
Cさん「私も椎名誠さんは好きで、ほとんど読んでいます。この本も読んだかもしれません。前に春名さんがパタゴニアを旅行されたということをお聞きして、すぐにパタゴニアのことがわかったのは椎名さんのおかげです。それから、さきほど自分が活字中毒だと言いましたが、それも椎名さんの『素敵な活字中毒者』から来ています」
春名「椎名誠さんの旅行エッセイはたくさんあって、仲間と一緒に秘境を旅したり、現地でワイワイ騒いだりする様子を独特の明るい文体で描くのが特徴です。でも、そんななかで本書はトーンが違って、すこし暗いんです。この旅をした当時、奥様が精神的に病んでいて、心配を抱えたまま椎名さんは出発します。だから現地でもなにかあるごとに奥様のことを思い出すんです。旅の途中で平べったい三角の石を拾って、これに穴をあけてペンダントにして奥様にプレゼントしようと思い立ちます。でも固い石だからなかなか穴があかず、旅の間中穴をあける作業を続けます。サブタイトルの『風とタンポポの物語』のうち、タンポポは奥様の象徴で、風が椎名さん自身です。タンポポは地に根を張って待っていて、椎名さんはどこかへふらふら行ってしまう風、ということですね。そうした奥様との関係性をつづったのがこの本です。僕はこの本を読んで憧れて、実際にパタゴニアまで出かけました」
Cさん「私もこの本で、パタゴニアは風が強くて大変な場所なんだと思いました」
春名「椎名さんの泊まったモンテカルロというホテルがあって、僕が行った時にもまだありました。本書に、ホテルから坂道を降りていくとマゼラン海峡に出る、という記述があって、実際にその通りに歩いて最後にマゼラン海峡を見た時には、感激しました。
 旅のエッセイ本としては他にも、イラストで綴った妹尾河童さんの本がいいですね。『河童が覗いたインド』『河童が覗いたヨーロッパ』などを楽しく読みました」
Cさん「私も好きでよく読みました! 妹尾河童さんが中国の村で食べたピエンローという鍋料理が、我が家の冬の名物になり、子供達にも引き継がれています。骨付きの鶏と白菜がメインの鍋です」
春名「僕が椎名さんのサバイバル料理で覚えているのは、焼き海苔に炊いた米を乗せて、現地で釣れたシャケの身とイクラも乗せてしょうゆをかけてかぶりつく、というもので、強烈に美味しそうだと思いました」
◆『トリエステの坂道』須賀敦子
あでりー「私も旅つながりで、本書をご紹介します。イタリア人と結婚してミラノに住んでいる著者が、トリエステを旅したことをメインに書かれたエッセイです。身近でなにげないことがさらりと書かれていて、優しい気持ちになれます。読後の余韻もいいですね」
春名「著者は何冊か、こうしたエッセイを出されています。文章がとてもきれいだと思います」
Cさん「最近疲れてきたから、エッセイみたいなものはいいですね。(読んでみて)言葉遣いもいいですね。著者は私の母と同世代です」
あでりー「その時代に外国に住むのは、偏見も多いだろうし、難しかったと思います。読んでいると、物哀しい感じもあります」
Cさん「私は、ある時から新しい小説が読めなくなってしまったので、こういう、知らない著者の優しいエッセイをご紹介くださるのは本当に嬉しいです。とても心が洗われます」
あでりー「心のスピードと同じくらいで読める本だと思います」
Cさん「心のスピードと同じ、というのはいい表現ですね」
◆『東京百年散歩』田山花袋(著)・歴史街歩き同好会(編集)
Cさん「平岩弓枝さんの『御宿かわせみ』シリーズが大好きで、『御宿かわせみ 東京下町散歩』に出てくる食事や場所が紹介されているのが本書です。とても楽しい本です。帯を椎名誠さんが書かれていますね。田山花袋の『東京とその近郊』が、今の風景と合わせて紹介されています。田山花袋の文章そのものは難しいところもあるんですが、ページ下部に注釈がついていて読みやすいです。いま毎週見ているNHK大河の『べらぼう』でも、知っている場所が出てくるとすごく楽しいです」