イベント開催報告
◆2026.2.24 Keswick読書会
〈好きな本を紹介し合いましょう〉
〈好きな本を紹介し合いましょう〉
【紹介された作品一覧】
『海と毒薬』遠藤周作『河童が覗いたトイレまんだら』妹尾河童
『灰色の輝ける贈り物』
アリステア・マクラウド(著),
中野恵津子(訳)
『日の名残り』
カズオ・イシグロ(著),
土屋政雄(訳)
『帰還兵はなぜ自殺するのか』
デイヴィッド・フィンケル(著),
古屋美登里(訳)
【詳細な内容】
◆『海と毒薬』遠藤周作
Nさん「初版が1954年ですので、かなり古い作品です。かつて北川透氏が主宰していた読書会に参加していて、その時に読みました。戦時中、米軍捕虜を九州の大学で人体実験した実話を元にした小説です。戦後、米軍占領下の時代に、旧来の日本的なものが否定され、時代劇の制作が制限されたりしました。そんな空気のなか、日本がこんな酷いことをしていたと告発する内容で、当時は話題になりました。戦争において、生きるか死ぬかという状況が人間を変えてしまうというテーマもあり、僕の知り合いでシベリア抑留された人も、仲間が人間の肉を食べるのを見て、人間とはここまで成り下がるのかと思ったらしいです。そういう人からすれば、この小説の世界も普通なんでしょうね。今の豊かな世界に生きる人が、それを非難することはできません」
春名「当時は強い反発があって、出版も大変だったでしょうね。1980年代には、満州で同じく人体実験をしていた731部隊を描いた『悪魔の飽食』がベストセラーになりました。
とにかく戦争という巨悪が全ての原因で、一人一人の人間に責任を負わせるのは酷だと思います。本作でも主人公の勝呂は、仲間のように人体実験に手を貸すことが恐ろしくてできず、自分は弱い人間だと悩んでいるんですが、実はそのほうが人間的で強いとも言えます。
僕も遠藤周作が好きで、代表作の『沈黙』も、ポルトガル人神父を主人公にして、人間の弱さを描いた作品でした。遠藤周作自身もキリスト教徒でしたが、強さを求める教義に馴染めず悩み続けた作家でした。
僕は、フランスに行った時にリヨンを訪れました。遠藤周作の留学先がリヨンだったので、下宿先や小説に出てくる公園などを巡り、いい経験になりました」
春名「当時は強い反発があって、出版も大変だったでしょうね。1980年代には、満州で同じく人体実験をしていた731部隊を描いた『悪魔の飽食』がベストセラーになりました。
とにかく戦争という巨悪が全ての原因で、一人一人の人間に責任を負わせるのは酷だと思います。本作でも主人公の勝呂は、仲間のように人体実験に手を貸すことが恐ろしくてできず、自分は弱い人間だと悩んでいるんですが、実はそのほうが人間的で強いとも言えます。
僕も遠藤周作が好きで、代表作の『沈黙』も、ポルトガル人神父を主人公にして、人間の弱さを描いた作品でした。遠藤周作自身もキリスト教徒でしたが、強さを求める教義に馴染めず悩み続けた作家でした。
僕は、フランスに行った時にリヨンを訪れました。遠藤周作の留学先がリヨンだったので、下宿先や小説に出てくる公園などを巡り、いい経験になりました」
◆『河童が覗いたトイレまんだら』妹尾河童
あでりー「以前の読書会で紹介されていたので、読みました。有名人のご自宅に行って、トイレを見せてもらって書いたものです。いちばん最初が椎名誠さんですね。軽くテンポよく書かれていて、その相手に合わせて表現なども工夫されています。目の付け所が素晴らしいですし、妹尾河童さん作品特有の、細密なイラストがまた素晴らしいですね。一編が短いので、さっくり読めます。大きな家だとトイレが何個もあったり、当時出始めだったウォシュレットを備えている家が多かったり、『おしりだって、洗ってほしい』というコピーを考案した仲畑貴志さん宅も登場します」
◆『灰色の輝ける贈り物』アリステア・マクラウド(著), 中野恵津子(訳)
春名「著者が過ごしたカナダのケープ・ブレトン島が舞台の、短編集です。かつてスコットランドには、18世紀頃に羊毛産業が経済を豊かにすると考え、羊の放牧のために住民を強制退去させた『ハイランド・クリアランス』という出来事がありました。国を追われた人々が移り住んだこの島は、誰もが厳しい環境の中でぎりぎりの生活をしながら、スコットランドの言葉やケルトの文化を守り続けています。
たとえば表題作では、貧しい家庭で暮らす18歳の少年が、いつしか盛り場のビリヤードに夢中になり、賭けのゲームで金を手にするが、いさんで帰った家で両親から思わぬ反応が返ってくる、という内容です。「秋へ」も似たような貧しい一家の話で、父親が冬に出稼ぎに行き、残された母親は馬の世話が大変だからと売りに出そうとします。幼い兄弟は馴れ親しんだ馬を手放すことに反対しますが、それでも兄は家庭の事情を理解し、無邪気に反対する弟をいさめようとする、という切ない物語です。「ランキンズ岬への道」は、ケープ・ブレトン島に住む祖母に、孫である青年が会いに行く話です。青年は命の危機を抱えており、祖母がかつてどのように厳しい人生を生き抜いてきたかの話を聞こうとします。遠く離れたカナダの僻地で、日本とはまったく環境も背景も違うのにこれだけ惹き込まれるところに、やはり人間というものがどこか深いところで繋がっているのだと思わせてくれます。本作は、海外文学の短編集としてはかなり好きな一冊です」
あでりー「以前、ニュージーランドで語学学校に通ったとき、一週目がカナダの先生で、二週目が確かイギリスの先生でした。それで、カナダの先生が言うには、カナダの人はイギリスからの移民が多いからイギリスを大事に思って文化や言葉を残してきたけれど、イギリス本土の人は新しいものをどんどん取り入れているから、カナダの言葉のほうが伝統的なんだ、ということでした」
たとえば表題作では、貧しい家庭で暮らす18歳の少年が、いつしか盛り場のビリヤードに夢中になり、賭けのゲームで金を手にするが、いさんで帰った家で両親から思わぬ反応が返ってくる、という内容です。「秋へ」も似たような貧しい一家の話で、父親が冬に出稼ぎに行き、残された母親は馬の世話が大変だからと売りに出そうとします。幼い兄弟は馴れ親しんだ馬を手放すことに反対しますが、それでも兄は家庭の事情を理解し、無邪気に反対する弟をいさめようとする、という切ない物語です。「ランキンズ岬への道」は、ケープ・ブレトン島に住む祖母に、孫である青年が会いに行く話です。青年は命の危機を抱えており、祖母がかつてどのように厳しい人生を生き抜いてきたかの話を聞こうとします。遠く離れたカナダの僻地で、日本とはまったく環境も背景も違うのにこれだけ惹き込まれるところに、やはり人間というものがどこか深いところで繋がっているのだと思わせてくれます。本作は、海外文学の短編集としてはかなり好きな一冊です」
あでりー「以前、ニュージーランドで語学学校に通ったとき、一週目がカナダの先生で、二週目が確かイギリスの先生でした。それで、カナダの先生が言うには、カナダの人はイギリスからの移民が多いからイギリスを大事に思って文化や言葉を残してきたけれど、イギリス本土の人は新しいものをどんどん取り入れているから、カナダの言葉のほうが伝統的なんだ、ということでした」
◆『日の名残り』カズオ・イシグロ(著),土屋政雄(訳)
Nさん「カズオ・イシグロは以前、特殊な状況で生きる少年少女を描いた『わたしを離さないで』を紹介しました。本作の主人公は有能な執事で、高貴な主人に仕えています。主人とその仲間が話している内容は、いかにヒトラーが素晴らしいかというものでした。戦争のさなかでは、自分達のおこないが正しく、そのために人を殺すことも辞さない、と思わないと生きていけなかった、それはどの国でも同じだと思います。カズオ・イシグロは、海外で活躍する日本人作家の中では飛び抜けた存在ですね」
春名「いま、たまたま配信で昔のNHKの朝ドラの『マッサン』を見ているんですが、戦地に赴く青年をめぐる展開が面白かったです。彼が戦争に行くことを家族や友人が悲しむなか、父親だけは『お国のために戦ってこい』と勇ましい言葉をかけるんです。それを他の家族や視聴者は酷いと思うんだけれど、父親の真意は『そう言ってあげないと息子が戦地に行くのを迷ってしまう』ということで、自分の悲しみを隠してわざと勇ましいことを言ってたんですね」
Nさん「悲劇や混乱は、善意から生まれます。優れた小説を読むと、そういうところがしっかり書けているなと思い、納得できますよね」
春名「いろんな優しさがありますから。単純にいい人と悪い人を分けることはできません」
あでりー「価値観の違いという点では、藤子・F・不二雄の『ミノタウロスの皿』を思い出しました。遠い星に人間がたどり着くと、そこでは牛が世界を支配していて、人間が家畜として飼われています。年に一度、いちばん優秀な人間を神様に生贄として捧げる習わしがあり、それに選ばれることは人間にとって一番の名誉なんです。地球から来た青年はそれに納得できず、生贄に選ばれた少女を説得しようとしますが、彼女は、確かに死ぬのは怖いけど名誉を失うのはもっと怖い、と言って自ら命を捧げます」
春名「いま、たまたま配信で昔のNHKの朝ドラの『マッサン』を見ているんですが、戦地に赴く青年をめぐる展開が面白かったです。彼が戦争に行くことを家族や友人が悲しむなか、父親だけは『お国のために戦ってこい』と勇ましい言葉をかけるんです。それを他の家族や視聴者は酷いと思うんだけれど、父親の真意は『そう言ってあげないと息子が戦地に行くのを迷ってしまう』ということで、自分の悲しみを隠してわざと勇ましいことを言ってたんですね」
Nさん「悲劇や混乱は、善意から生まれます。優れた小説を読むと、そういうところがしっかり書けているなと思い、納得できますよね」
春名「いろんな優しさがありますから。単純にいい人と悪い人を分けることはできません」
あでりー「価値観の違いという点では、藤子・F・不二雄の『ミノタウロスの皿』を思い出しました。遠い星に人間がたどり着くと、そこでは牛が世界を支配していて、人間が家畜として飼われています。年に一度、いちばん優秀な人間を神様に生贄として捧げる習わしがあり、それに選ばれることは人間にとって一番の名誉なんです。地球から来た青年はそれに納得できず、生贄に選ばれた少女を説得しようとしますが、彼女は、確かに死ぬのは怖いけど名誉を失うのはもっと怖い、と言って自ら命を捧げます」
◆『帰還兵はなぜ自殺するのか』デイヴィッド・フィンケル(著),古屋美登里(訳)
春名「戦争つながりで本書をご紹介します。イラク戦争から帰還した兵士は、多くが精神を病んでいて、その後の日常をうまく生きることができないでいます。自分の子供を突然投げつけようとしたり、暴力を振るったりするんですね。そして、そうやって育てられた子供が、また自分の子供に同じように接することになります。
人を殺さないといけないという異常な状況では、すごく冷淡な人間になるか、自分が精神を病むかのどちらかしかないんです。本書ではいくつかの実例から、その悲惨な実体を暴いていきます。だから戦争は、戦争中の何年間かだけの話ではなく、その後何十年、何世代にも渡って悲劇を引き起こすことになります。戦争被害者の精神の治療をおこなう施設があるんですが、そこにはいまだにベトナム帰還兵がいたりするんです」
Nさん「自分の中に、また違う自分を抱えて生きていかなくちゃいけないんでしょうね」
春名「人格破壊にもつながるかもしれません」
人を殺さないといけないという異常な状況では、すごく冷淡な人間になるか、自分が精神を病むかのどちらかしかないんです。本書ではいくつかの実例から、その悲惨な実体を暴いていきます。だから戦争は、戦争中の何年間かだけの話ではなく、その後何十年、何世代にも渡って悲劇を引き起こすことになります。戦争被害者の精神の治療をおこなう施設があるんですが、そこにはいまだにベトナム帰還兵がいたりするんです」
Nさん「自分の中に、また違う自分を抱えて生きていかなくちゃいけないんでしょうね」
春名「人格破壊にもつながるかもしれません」
